医療保険とがん保険をセットで加入するメリットは?保障内容の違いや注意点を解説
公開日:2025年10月30日

医療保険の加入を検討するとき、「がん保険もセットで入るべき?」と迷う方は少なくありません。医療保険とがん保険は、どちらも医療費の経済的な負担を軽減してくれますが、保障される範囲が異なります。だからこそ、それぞれの特徴を理解したうえで、医療保険だけにするのか、がん保険も組み合わせるのかを判断することが大切です。本記事では、両者の違いをわかりやすく整理し、セットで加入するメリットや注意点について解説します。
医療保険とがん保険の違い
医療保険とがん保険は、加入する目的や保障される内容が異なります。そのため、医療保険だけに加入するのか、がん保険を組み合わせて備えるのかを検討するときには、両者の違いを理解したうえで選ぶことが大切です。以下では、両者の特徴を比較しながら違いをわかりやすく解説します。
■保障対象・給付金の種類
医療保険は、病気やケガ全般を保障の対象としています。たとえば、骨折による入院や盲腸の手術、がんや脳卒中、心筋梗塞など幅広いケースをカバーします。代表的な給付金は、入院した日数に応じて支払われる入院給付金や、手術を受けたときに支払われる手術給付金です。医療保険は、まさに医療費の基本的な部分を支える保険といえます。
一方、がん保険は保障の対象を悪性新生物(がん)や上皮内新生物(上皮内がん)に限定しています。給付金の種類もがんに特化しており、がんと診断された段階でまとまったお金が支払われるがん診断給付金(がん診断一時金)や、がんの治療で入院したときに、入院日数に応じて支払われるがん入院給付金、がん治療を受けたときに支払われるがん治療給付金などがあります。さらに、抗がん剤治療や放射線治療を受けた場合に給付金が支払われる商品もあり、がん治療の実態に合わせた設計となっています。上皮内新生物の扱いは商品によって異なり、保障されないことや給付額が減額されることなどがあるため、契約のしおりや約款の確認が欠かせません。
このように、医療保険は「病気やケガに幅広く備える保険」、がん保険は「がんに特化して手厚く備える保険」として、それぞれの役割が分かれています。
■支払限度日数
医療保険とがん保険は、入院給付金の日数についても違いがあります。
まず、医療保険は「1入院あたりの支払限度日数」が設けられているのが一般的です。「60日型」や「120日型」のように、1回の入院につき支払われる入院給付金の上限日数があらかじめ決まっています。もし、60日型の契約で90日間入院した場合、給付金が出るのは最初の60日分だけで、残りの30日分は対象外となります。
さらに、医療保険には「通算支払限度日数(通算支払日数)」というルールもあります。これは、契約期間を通じて入院日数の合計が一定の上限に達したら、それ以降は給付されないという仕組みです。たとえば「通算1,000日型」の場合、複数回の入院を合計して1,000日を超えると、それ以上は給付されません。
一方、がん保険は支払日数に制限を設けていない商品が多いです。がん治療は再発や転移によって長期にわたったり、複数回の入院や治療が必要になったりすることが珍しくありません。そのため、多くのがん保険では「1入院あたり」「通算」といった日数制限を設けず、必要なだけ給付が受けられるようにしています。
■免責(待機)期間
免責(待機)期間とは、契約成立から一定期間は保障の対象外となる期間のことです。医療保険には通常、免責期間はありませんが、がん保険には設けられているのが一般的です。ほとんどのがん保険では、免責期間は「90日」または「3か月間」と定められており、この期間中にがんと診断されても給付金は支払われません。
なぜこのような仕組みがあるのでしょうか。理由は、契約者間の公平性を保つためです。すでにがんに罹っている人や、がんの疑いが強い人が加入してすぐに保険金が支払われると、契約者間で不公平が生じてしまいます。そのため、多くの保険会社では免責期間を設けることで、加入者間の公平性を保ち、安心して利用できる仕組みとしています。
ただし、近年は免責期間がないがん保険も販売されています。その場合、保障の範囲が限定されていたり、給付額が抑えられていたりする場合が多いため、保障内容をよく確認する必要があります。
・医療保険とがん保険の比較
医療保険のがん特約とがん保険の違い
多くの医療保険は、オプションとして「がん特約」を付けることができます。これは、通常の医療保険にがんへの保障を上乗せできる仕組みで、がんと診断されたときに一時金が支払われたり、がん治療時に給付金が支払われたりします。つまり、医療保険にがん特約を付ければ、病気やケガ全般に加えて、がんに対する一定の保障も確保できます。
ただし、がん特約はあくまで医療保険の付加であり、保障額や保障内容に制限があるのが一般的です。例えば、一時金の上限金額はがん保険よりも低く設定されていることや、通院での抗がん剤治療に対応した特約を選べないことがあります。
これに対して、1つの保険商品として独立しているがん保険は、診断給付金を高額に設定できたり、複数回の支給に対応していたり、抗がん剤治療や放射線治療への保障を厚くできたりと、柔軟に設計できるのが特徴です。
医療保険とがん保険をセットで加入するメリット
「国立がん研究センターがん情報サービス」の最新がん統計(2021年データ)によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性63.3%(2人に1人)、女性50.8%(2人に1人)となっており、がんは誰にとっても身近な病気といえます。
そのため、がんを含む幅広い病気やケガに備えておきたい人は、医療保険の加入が基本となります。がんに罹るリスクにも手厚く備えたい人は、がん保険をセットで加入するとよいでしょう。
なぜなら、医療保険だけでは、がん治療を十分にカバーできない場合があるからです。近年、抗がん剤や放射線治療の外来実施が一般化し、がん治療は通院を含む長期治療になりやすい傾向があります。一方、医療保険の“基本形”は入院・手術中心で、通院給付は特約で付けるタイプも多く見られます。また、入院給付金には日数制限があるため、治療が長期化すると保障が途切れてしまうリスクもあります。
その点、がん保険を組み合わせれば、診断給付金や治療給付金で長期化・高額化しやすいがん治療をカバーできます。つまり、セット加入によって、医療保険で「広く浅く」、がん保険で「狭く深く」備えるという役割分担が実現できます。
医療保険とがん保険をセットで加入する際の注意点
ここでは、医療保険とがん保険をセットで加入する際の主な注意点を解説します。
■保障内容が重複していないか確認する
医療保険とがん保険をセットで加入するときは、保障が重複していないかを確認しましょう。例えば両方に入院給付金が付いている場合、がんで入院すると二重に給付を受けられますが、必要以上の保険料を払っていることにもなりかねません。もし、入院給付金は1つで十分と考えるなら、入院給付金のないがん保険を選び、診断給付金を中心に設計すると、無駄のない保障が組めます。
診断給付金は、生活費を補填するなど治療費以外にかかる支出にも使いやすく、医療保険の入院給付金と重複しにくいのが利点です。
■保険料の負担が増える
医療保険とがん保険をセットで加入すると、保障内容は手厚くなり安心感も高まります。しかし、どちらか一方だけに加入する場合に比べ、保険料の負担は大きくなります。必要な保障を確保することは大事ですが、保険料の負担が重くなりすぎて家計を圧迫してしまっては本末転倒です。
そのため、セット加入を検討するときは、今後のイベントを見据えて、無理なく支払いを続けられるか、家計に占める保険料のバランスは適切かを意識することが大切です。
医療保険とがん保険をセットで加入するのに向いている人は?
医療保険とがん保険をセットで加入するのに向いているのは、一般的な病気やケガへ備えるだけでなく、がんへの保障もしっかり確保しておきたいと考える人です。
たとえば、子育て世代の家庭では、教育費や住宅ローンの負担が重く、貯蓄を取り崩す余裕がない場合も少なくありません。万が一、がんなどの大病で収入が減少すれば、生活が立ち行かなくなるリスクがあります。このようなケースでは、医療保険とがん保険の両方に加入していれば、生活を支える助けになります。
また、自営業やフリーランスもセット加入に向いています。会社員と異なり、しばらく働けなくなるとすぐに収入が途絶えます。仮に、がん治療が長期化すれば、経済的な打撃は大きくなるため、医療保険で病気を幅広くカバーしつつ、がん保険で収入減に備えると効果的です。
さらに、家族にがんの既往歴がある人で、心理的・経済的な不安を軽減したい場合は、医療保険に加えてがん保険を組み合わせることで、安心感を得られるでしょう。
加えて、老後資金を意識し始めた人にもセット加入はおすすめです。高齢になるほど病気やケガのリスクは高まりますが、通院によるがん治療が長引けば、発生する費用も大きくなります。老後の生活資金を医療費で大きく削りたくない人は、医療保険にがん保険を上乗せすると、将来の生活基盤を守る手段になります。
このように、ライフステージや働き方などによって必要となる保障は異なりますが、一般的な病気やケガだけでなく、がんという特定のリスクにも備えておきたい人は、医療保険とがん保険をセットで加入する方法が有効です。
まとめ
医療保険とがん保険をセットで加入すると、保障範囲を広げられる点がメリットです。医療保険は病気やケガ全般、がん保険はがん治療に特化しており、両者を組み合わせることで安心感は一層高まります。一方で、両方に加入すると保険料の負担は増えます。せっかくの備えが家計を圧迫してしまっては意味がありません。そのため、セット加入を検討する際には、保障内容の重複がないか、保険料は無理なく払える範囲に収まっているかを確認することが大切です。
自分や家族のライフスタイル、不安の大きさ、家計の状況を踏まえたうえで、どのように医療保険とがん保険を組み合わせるかを考えましょう。
※この記事の情報は2025年9月時点


(ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、定年力アドバイザー、相続手続カウンセラー)
中山弘恵(なかやまひろえ)
生活に関わるお金や制度をテーマにした講師業務、執筆業務、個別相談業務に従事。「わかりやすく丁寧なセミナー」「ストレスなく読み進められるわかりやすい文章」「安心しながら気軽に話せる相談相手」として定評がある。
