60代で医療保険は必要?備えたいリスクや見直す際のポイントを解説
公開日:2025年10月30日

会社を退職し年金生活になると、現役時代にはあまり意識しなかったことを不安に感じる人が増えるのではないでしょうか。例えば医療費。もし病気になったら、いくらぐらいかかるのだろうか。ちゃんと払えるだろうかなどと考えることはありませんか。60代は若い頃に比べて病気のリスクが高まります。入院や手術が必要な大きな病気を発症すると、治療費が高額になる可能性もあります。医療費の支払いのために貯蓄を取り崩し、その後の生活費に影響が出るかもしれません。家計の状況を確認し、医療保険で備えておくことも検討してはいかがでしょう。
この記事では、60代の医療保険の加入率や抱えているリスク、医療保険の必要性について解説します。60代で医療保険を見直す際のポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
60代で医療保険は必要?
60代の人に医療保険は必要なのでしょうか? まずは、どれくらいの人が医療保険に入っているか、平均して毎月どれくらいの保険料を払っているかを調査から確認してみましょう。
■60代の医療保険の加入率
生命保険文化センターの「2022(令和4)年度生活保障に関する調査」によると、60代の医療保険(疾病入院給付金付生命保険)の加入率は、男性が67.8%、女性が74.9%です。
50代に次いで加入率が高くなっています。男女ともに7割前後の人が病気やケガのリスクに備えていることがわかります。
・毎月の平均保険料
では、毎月の保険料はどうでしょうか。
先ほどと同じ調査によると、医療保険を含む生命保険の年間払込保険料は、60代男性が21.2万円、60代女性が15.9万円です。毎月の平均保険料は、60代男性が約1万7,700円、60代女性が1万3,250円。
60代は、50代・40代に次いで高くなっています。
60代が抱えるリスク
60代はどのようなリスクを抱えているのでしょうか。人生100年時代、まだまだ人生は続きますが、50代までとは異なることが増えてきます。これから起きるかもしれないリスクを知っておくことは重要です。
60代が直面しやすい健康リスクや経済的リスクについて解説しましょう。
・医療費の自己負担が増える可能性がある
厚生労働省の「令和5年患者調査」によると、60代は高血圧症や糖尿病といった生活習慣病の発症リスクが高まり、そのため若い頃に比べて医療機関を受診する頻度が高まります。治療期間も長期化する傾向があります。病気だけではなく、筋力が衰えて転倒するなどにより骨折も増加します。
また、公益財団法人 がん研究振興財団の「がんの統計2025」によると、がんの罹患者数が男女ともに60代前後で大きく増加しています。
・年齢階級別がん罹患者

(出典:公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計2025」)
日本は、病気やケガの医療費に備える公的医療保険制度が充実しています。医療費の自己負担は年齢や収入により1~3割で済みます。ただし、公的医療保険の対象となる治療に限られます。先進医療の技術料など保険適用外の治療費や手術代は全額自己負担。保険適用の病気やケガであっても、通院や入院でかかるすべての費用をカバーできるわけではありません。
例えば、差額ベッド代(個室や少人数部屋の利用料)や、入院時のパジャマなどの衣類に日用品、入院中の食事代(一部自己負担あり)、退院後の通院費など、公的医療保険の対象外になるものも意外と多いのです。
保険診療の医療費が高額になった場合には、所得に応じて一定額までの支払いですむ高額療養費制度がありますが、制度を利用しても一定の自己負担は生じます。
公的医療保険ではカバーできない自己負担分を、民間の医療保険で補うことができれば、急な病気やケガで高額な出費が必要になったときの、家計の負担を軽減することができます。
・収入が減少する
60代以降、会社員の多くは定年退職を迎えます。退職後も継続雇用などで働く人が増えていますが、現役時代に比べると収入が減少する傾向があります。国税庁の「令和5年分 民間給与実態統計調査」によれば、年齢階層別の平均給与は50代後半をピークに下がっています。
そのような状況で、予期せぬ病気やケガにより高額な医療費が発生すると、貯蓄を切り崩すことになったり、家計が圧迫されたりする可能性があります。
医療保険に加入していれば、入院給付金や手術給付金などが支払われるため、医療費の自己負担分だけでなく、入院中の生活費や治療期間中の収入減を補えることになります。
・保険加入に制約がかかる可能性がある
先ほど紹介した「令和5年患者調査」や「がんの統計2025」でもわかる通り、60代になると、若い頃に比べて健康状態が変化し、高血圧や糖尿病などの持病を抱える人やがんを発症する人が増えてきます。医療保険の多くは加入時に健康状態の告知が求められるため、持病がある場合、保険に加入できなかったり、保障内容が制限されたり、保険料が割増しになったりする場合があります。
現在、健康であれば、病気やケガのリスクに備えて今のうちに医療保険を検討することは重要です。
病気になってからでは、加入できる医療保険の選択肢が限られる可能性があり、加入できたとしても保障内容や範囲、給付条件などが厳しくなる可能性があります。早めに検討を始めましょう。
60代で医療保険を見直す際のポイント
医療保険に入っているなら、今の保険が自分にとって最適なのか、60代で医療保険を見直す際のポイントを解説します。これから医療保険に入る人も、考え方は同じです。
・自身の健康状態に合わせて保障内容を見直す
60代で医療保険を見直す際は、まず自分自身の健康状態を考えてみましょう。特に持病はないけれど、若いころに比べて疲れやすいなど体調の変化があるのではないでしょうか。不調は将来の病気につながるリスクですから、自分の体調を把握することが重要です。過去に入院・手術歴があるならその内容、家族の病歴も考慮し、将来発症する可能性のある疾患への備えを検討しましょう。
例えば、家族の病歴から、がんのリスクが高いと感じるならがん特約の追加、骨折の不安があるなら通院給付金のある保障の検討など、ご自身の状況に合わせて保障内容を見直すことが大切です。
高血圧や糖尿病などの持病がある場合、それらの疾患に対する保障内容を確認しましょう。
病気やケガ全般のリスクに備えつつ、自分に合う保障になるよう考えるのです。
・公的医療保険でカバーできない部分を確認する
先ほども述べた通り、日本の公的医療保険は手厚いものの、すべてをカバーできるわけではありません。保険診療の医療費以外にも自分で負担する費用が生じます。病気やケガの状況によっては、治療が長引いて、差額ベッド代などの自己負担が高額になることも考えられます。
保険診療の医療費についても、高額療養費制度で自己負担限度額を超えた分が払い戻されるとはいえ、一定額の自己負担は発生しますし、長引けば合計額は増えていきます。
公的医療保険ではカバーできない部分を再確認した上で、自己負担分をどれくらい補いたいかを考えて医療保険の保障内容を検討しましょう。
・保険料と保障内容のバランスを考慮する
医療保険の見直しでは、保険料についても考える必要があります。自分が望む保障が全部満たされればそれに越したことはありませんが、保障を過度に充実させると、保険料が高額になってしまうため注意が必要です。保険料が高くて家計の収支が悪化し、保険加入の継続が困難になっては本末転倒です。60代に入ると収入は減少する人が多く、年金生活に入る人もいます。
本当に必要な保障に絞り、不要な特約を削除するなどして保険料を抑える工夫も必要です。
ご自身の今後のライフプランや貯蓄状況に合わせて、無理なく続けられる保険料の範囲で最適な保障内容を選ぶようにしましょう。家計に無理のない保険料でリスクに備えておくことが、長いセカンドライフを充実して過ごすことにつながります。
まとめ
60代の医療保険の加入率は70%前後。多くの人が医療費のリスクに備える方法として医療保険に加入しています。日本の公的医療保険制度は手厚いのが特徴ですが、自己負担になる費用もあります。
60代に入ると、若い頃よりも生活習慣病やがんの罹患率が高まり、治療も長期化する傾向があります。医療費が高額になった際に、医療保険から給付金を受け取れれば、貯蓄を取り崩すなどによる家計への影響を低減できる可能性があります。
とはいえ、定年退職などにより60代以降は収入がそれまでよりも低くなるケースが多いので、無理なく払える保険料で、自分に必要な保障を確保するという考え方で医療保険を検討するのがポイントです。
※この記事の情報は2025年9月時点


ファイナンシャルプランナー(CFP®)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士
坂本綾子(さかもと あやこ)
雑誌記者を経て2010年ファイナンシャルプランナーとして独立。執筆、セミナー講師を行う。消費者からの家計相談にも対応。著書に「改訂新版 節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本」(朝日新聞出版)、「きみたちはどう稼ぐか?1杯のコーヒーをお金に換える方法」(中央公論新社)などがある。
