【適応症】 短腸症候群又は不可逆的な機能性小腸不全(経静脈栄養を要するものであって、経静脈栄養の継続が困難なもの又は困難になることが予測されるものに限る。) 【概要】 短腸症候群、機能的不可逆性小腸不全のために経静脈栄養から離脱できない症例が静脈栄養の合併症などによりその継続が困難となった場合、正常な栄養状態、発育は維持できず、経静脈栄養の中止は多くの場合致命的である。また、経静脈栄養の合併症そのものも生命を脅かしQOLを著しく低下させるものである。このような症例に対し小腸移植を行うことにより経静脈栄養からの離脱が可能となり、重篤な静脈栄養の合併症を回避できるだけでなく、経口摂取が可能となり、点滴、カテーテルから解放され、ほぼ正常の日常生活をおくれるといった著しいQOLの向上を図ることができる。脳死ドナーからの小腸移植では、小腸と結腸の一部をその部位を還流する血管を含めて切除し、レシピエントの血管と吻合し、同所性に移植する。小腸は全腸管の長さの1/3以内(約1~2m)であればその一部を切除しても機能に影響がないため生体ドナーからの臓器提供が可能であるが、特に成人のレシピエントの場合には小腸の全長と、場合によっては結腸の一部も移植可能な脳死ドナーからの移植が栄養、水分吸収などの面で有利である。本邦において脳死ドナーの不足は深刻な問題であるが、現在年間十数例の脳死下の臓器提供が行われるようになり、我々の5例の脳死ドナーからの小腸移植の経験からは、そのうち約半数のドナーから移植可能な良好な小腸グラフトの採取が可能であり、レシピエントは1-9ヶ月間の待機で脳死ドナーからの小腸移植が可能であった。生体ドナーからの移植には健康なドナーを手術するという倫理的な問題も存在し、また上述のように小腸の一部しか移植することができないため、成人のレシピエントで数ヶ月間の移植待機が可能な医学的緊急度のそれほど高くない症例に対しては脳死ドナーからの移植を積極的にすすめるべきであろう。経静脈栄養を受けている患者は国内に約3000例以上存在し、うち数百例は潜在的な小腸移植の適応症例と考えられ、年間約数十例の新規適応患者が発生すると試算されている。脳死ドナーからの小腸移植は今後、短腸症候群/小腸機能不全に対する根治的治療となり得るものと考えられる。
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